タイの食文化が大きく変わろうとしています。食品デリバリー最大手のGrabFoodが2026年の食トレンドを発表した報告書によると、今年の街のグルメシーンを支配するのは「静寂の贅沢」という概念を表現する三つの味わい─抹茶、ピスタチオ、タロです。 これら三つの素材は、甘い菓子からしょっぱい料理、飲料まで、あらゆる食べ物に組み込まれ始めています。特にピスタチオは、グラフ化したGrabFood内での検索が過去1年で倍増するほどの人気。ピスタチオティラミスや、タルト菓子など新しいデザート作品が次々と登場しています。 アジアの隣国からのバイラル菓子も注目です。日本の大阪クリームパフから始まり、シャンハイ発祥の鶏そぼろ入りシフォンケーキ、そしてドバイチョコレート旋風に続くドバイ風のもっちりクッキーなど、中国・韓国・日本発祥のメニューがタイの消費者を虜にしています。タイの菓子店もこうしたトレンドに追随し、独自の解釈を加えながら次々と新作を発表しているほどです。 一方、タイの伝統的な料理文化の再解釈も進んでいます。農家から直接仕入れた素材を使った複雑な味わい、懐かしさと新しさが共存する工夫が特徴です。例えば、イサーン地方の青パパイヤサラッドは、甘さ・酸っぱさ・辛さが多層的に絡み合う奥深い味へと進化。豚の揚げ物をプラントベースで表現する店もあり、伝統的な食の形を保ちつつ、新しい食べ方へのニーズに応えています。 タイの菓子工房やベーカリーは、長年ニッチな存在だった「職人的手法」を主流へ推し上げようとしています。サワー種を使ったパンや、こだわりのサンドイッチなど、丁寧に作られた焼き菓子への需要は月を追うごとに増加。街のあちこちに小ぶりな工芸ベーカリーが姿を現し、バンコクの朝食の光景も変わり始めています。 こうした動きの背景には、消費者の「質への目覚め」があります。SNS映えする見た目も重要ですが、それ以上に、複雑で深い味わいへの憧憬が強まっているのです。単なる甘さや美しさではなく、素材の声を聞き、丁寧に組み立てられた食べ物を求める─そうした意識がタイの食卓に静かな変化をもたらしています。